私が物心ついた小学生の頃、祖父のアトリエをよくのぞきに行った。
最後に祖父が絵を描いていたのはセザンヌの「パイプをくわえた男」の模写だった。
人生の最後の頃になって、何故今模写を?
「セザンヌはどうだ?」と聞かれて「わからん、こんなのオレでも描ける!」と言ったら笑われた。
「完璧なんだよ・・・」とぽつりと言った。
何が完璧なのか、小学生にはまったく理解が出来ない。
荒いタッチ、形があるようでないような絵、セザンヌの絵そのものがわからない。
それ以来、セザンヌは私の心の中に「謎」の部分となって住み着いてしまった。
彼の絵は同時代に生きた画家たちに、とてつもない影響を与えたという。
それまでに彼のような描き方をする人はいなかったのだろう、ピカソでさえ、セザンヌに影響と受けたとはっきり言っている。
でも、同時代に生きることの出来なかった自分にはどうしてもわからない。
セザンヌの絵を見るたびに祖父のことを思い出すが、未だにその謎は解けていないのだ。
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福島潟。
Nikon D3 : Nikkor 24-120mm F4